西之表市西町の夜に溶け込む店構え

相方、タニカツさんと相談した。そろそろ〈かごしま酒場探訪〉を再開してもいいのではないだろうかと。これまで新型コロナウイルスの感染拡大という状況の前に、見た人に行動を促すようなことは避けるべきだなと、2年近くに渡り〈かごしま酒場探訪〉を休止してきた。しかしまん延防止等重点措置の適用や緊急事態宣言の発出がくり返される中、その度に飲食店、酒場などが自粛という規制にさらされ、窮地に立つ状況をくり返し目の当たりにした。座して状況を眺めているだけでは……。そんな思いに駆られた。しかし〈かごしま酒場探訪〉にできることはひとつだけ。エールを送るつもりで更新を再開する。これしかないと。その再開第一弾に種子島西之表市のみつわ寿司を選んだ。ここは知る人ぞ知る、マニア向けの店。前に1度紹介しているが、再度この状況下で頑張っている大将と女将の姿に動かされ、情報をプラスして紹介しなおす。
さて、タニカツとしみてつのアテはあるけどあてのない飲み歩きの旅、ふたたびはじまりはじまり。

凛々しく寿司を握る

琉球弧の入り口種子島。鉄砲伝来の島、種子島。宇宙に一番近い島、種子島。安納芋の島、種子島……。いろいろと話題になる種子島。その玄関西之表港のすぐそばに、その店みつわ寿司はある。一応「寿司」の看板を掲げていますが、居酒屋だと言う人も。
名物は何と言っても「大将の人柄」だと口さがない常連客は笑う。
寿司を握れば名人、いや迷人技。この道一筋の上妻義人(コウヅマヨシト)さんと、大将にはめっぽう厳しいが客にはめちゃくちゃ甘い女将光子(テルコ)さんが、手ぐすね引いて、もとい!愛情込めて客が来るのを待ちかまえている。種子島に渡りコテコテのジモティの夜を楽しみたいという物好きな人にぜひすすめたい。

女将は大将にけっこう厳しいが、実は優しいのだ

「バキィとオイが待っとるばってん」愛想などまったく感じさせないぶっきらぼうな表情で大将は言う。「バキィっちゃかかあ、かあちゃん、嫁のことやっで。オイは、ちょっと無口でハードボイルド系やっどが、バキィは愛想よしでお人好し。お客さんにはサービスたっぷりやで。特に島外からのお客さんには、オイをほったらかしてもサービスしよる」
寿司屋というとやや敷居が高いと思われがちだが、「ここは低すぎる」常連客は笑う。しかし、客は常連だけではない。大将はやや猫背の背中をさらに丸めタバコをくわえながら笑う。
「日本全国どこからも来てくれる。味は……。まあ、味もよかやけど、オイら夫婦のかけ合いもな。そういやあ、地だこを湯がいて吊るすのが面白いらしい。地元の味を地元のやり方で、やな。ま、いっぺんおじゃりもうせ。
バキィとオイが待っとるばってん!!」
と。

タコは湯がいて吊るして干す
タコを刺身で
マグロとハガツオ

地元で獲れた生きのいい魚を取り揃えている。その日のネタはネタケース見ればよし。握るもよし、つまみにするもよし。だが、客のほとんどは飲む。常連にとってはここは居酒屋、酒場なのだ。
オススメは魚だけではない。手づくりのつけ揚げ、一夜干し、唐揚げ、季節野菜・山菜の天ぷら、も。特に女将が腕によりをかけたその日の付き出しは、それだけでお酒がすすむ。出張の一人客も多い。そんな客には季節を問わず地魚がたっぷり入った一人鍋が用意できる。あるいは食事だけという客には定食も用意している。

自家製つけ揚げ
ニガタケと山菜の天ぷら
カキフライなどというものもある

「居酒屋と勘違いしてる人は多いけど、何なりとお申し付けください。お持ち帰り、二次会へのお土産もお気軽に。あなたの意のままに、あなたの胃袋充します。ただしその日入荷のネタ次第ですが。お一人でもお気軽にどうぞ」
女将はどこまでも愛想がいい。
実際カウンターで寿司をつまんでいると、ひっきりなしに持ち帰りの客がくる。
「昔は持ち帰りだけで1日に10万なんちゅうこともあったばってん、いまはな……」
持ち帰り用のにぎりは(並)が1100円、(中)1600円、(上)2100円 そして(特上)2900円。だがここでお勧めしたいのはレタス巻き900円だ。出張の夜、カウンターで少々酔った上に、宿に戻って缶ビールとレタス巻きで飲みなおしというのもなかなかいいもんだ。

大将渾身の海鮮ちらし
レタス巻き

大将が言う「昔」とは1990年代、まだまだ島はバブルを最中にあった。島の経済の波は、本土のそれから少し遅れてやってくるのだ。だから本土でバブルがはじけた頃、島はまだバブル景気が続いていたのだと大将は言う。
「昔はぁよ、あん頃は面白かったあ。メニューにも凝ったばってん、アベック巻きち、やりよったなあ。なに、山芋まいたばっかよ。ベタベタしてるからなあ。初恋巻きなんかもあったな。梅じそ巻いたばっかよ。甘酸っぱいやろ」」
今それらの名はメニューからは消えている。
「儲かったからな。あん頃は。遊ぶ余裕があったばってん、今はな……」
大将は少々さみしそうである。

8時になればいそいそと
カウンターで酒を飲み
たまにはそのまま寝落ちする

「店は6時に開けるけど、寿司が食いたけりゃあ、夜の8時までに入ってくれな
みつわ寿司の閉店時間は午後10時だ。閉店までには2時間も余裕があるのに8時までに入れとは。
「8時回ったら、オイもカウンターに腰掛けて晩酌はじめるからな。酔うと寿司ば握れんからな。バキィに握らすわけにもいかんから」
大将は平然といい、悪びれる様子もなく笑った。
「前はね9時からやったけど、だんだん早くなってね、今は8時には飲みだすね」
と女将も笑った。
「前は9時まで辛抱しとったけど、辛抱しきらんからな。1日の終わりに旨い酒飲んで、酔って、気持ちよくその日を終える。そんなことができるのも、お客が許してくれるからやっで。感謝してる」
で、大将は酔うとどうなるのか。客がいようがどうしようが、カウンターに突っ伏して寝るのだ。しかしこの風景を嫌う客はいない。
この自分の都合優先という大将のスタイルが、実は客からは受けているのだ。だから客たちは、「みつわで寿司をつまむなら8時入店!」を厳守しているのだ。寿司よりも飲むという客はこの限りではない。大将とカウンターに並び、種子島の話でもしながらゆっくり飲むのも面白い。
興が乗れば大将は必ずこう言うはずだ。
「一緒にカラオケでもいくがぁ。ええ店に連れて行くよ。ほれ女の子の土産に寿司折でも持っていくが」
魚や寿司はもちろんだけど、大将と女将の人柄と店のありようが、一番のアテになる。
寿司を握ってマイクを握り、飲んで歌って、今夜も種子島の夜はふけていく……。

早い時間は寿司をば握り、店がハネたらひとうなり

みつわ寿司

〒891-3113 鹿児島県西之表市東町1
電話 0997-23-2829
営業時間 18:00〜
定休日 不定

まん延防止等重点措置適用中
営業時間 20:00まで
酒類の提供はなし
ただしお持ち帰りは22:00まで

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