飾り気はないがどことなく気迫と自信が漂う

どうやら立ち飲みがブームらしい。
立ち飲みといえば角打ちだ。そんなことを言うと歳がバレるか……。
角打ちというのは、酒屋の軒先で酒屋で買った酒を飲ませるようになったことからはじまったそうだ。それがいつの間にか店の中に小さなカウンターを設え、客を招き入れ飲ませるようになった。居酒屋ではないので、ビールはビールの値段、つまみの乾きものや缶詰も売価そのまま。安くで飲めるのだ。仕事明けの工場労働者や勤め人が、10分、20分でさっと飲んで帰っていく。
立ち飲みは、角打ちと居酒屋のちょうど中間だと考えればいいかな。

心地よいテンポで仕込みが進む

立ち飲みの使い方としては、例えば待ち合わせまでの時間つぶし、あるいはバス待ちのわずかな時間に1杯、2杯ひっかけるように飲んで、とっとと出ていく。そんなことだろうと思う。
ところが最近目に余るのが、立ち飲みに椅子を置けと迫ったり、その椅子に長時間居座って大声で騒いだり、挙句にナンパをしたり客引きをしたりするという、酒飲みの風上にも置けない行状だ。そういう連中は決まって常連面をして好き勝手するからタチが悪い。勘違いにもほどがある。
まあ売り上げを優先して、そんな客に注意できない店も店だ。そんなことならはじめから居酒屋にすればいい。
ということで、今回はその立ち飲みを探訪した。

奥には少しだけ椅子席が。高齢者用か

鹿児島市内、天文館からは離れて鹿児島駅前。電車通り沿いにある大衆立場足立屋がその店だ。立ち飲みというスタイル、足立屋という店名から、てっきり東京発のチェーン店かフランチャイズかと思っていたら、本店は沖縄だという。宜野湾からスタートした店で、沖縄県内で8店舗を出店し鹿児島のこの店が県外初出店だということだ。
外から見ている限りでは、何の飾り気もなくただただ酒を飲ませるためだけに店を構えてるんだという気迫のようなものを感じる。ここに集う飲み手はかなりの強者に違いない。そんなことを思わせる。

これがモツ煮込みになるのだ

正午の開店と同時に暖簾を割った。厨房を囲むように「コ」の字型の長いカウンターが中央に。この存在感は大したものだ。鹿児島でこういう酒場を探していたが、なかなか出会えなかった。これはかなりイケてるなと内心ほくそ笑む。仕込み中のモツの大鍋の前に陣取る。さてと何を注文するかな……。店内を見回して壁の張り紙に目が止まる。「千べろ」。千円で飲み物3杯とモツ煮込みか串カツの盛り合わせかがついてくる。迷わずそれを。飲み物はハイボール。あては串カツ。

瓶ビール、ノンアルビール、デキャンタワイン以外は千べろの対象

ウイスキーは定量をサーバーから。炭酸は缶を1本。3度ハイボールを頼むと、炭酸は3本出てくることになる! 後になってからだが、これはワナだと気づく。だって明らかに炭酸の量が多いじゃないか。ということは中身のウイスキーは3杯で終わるわけなく、ついつい頼むことになる。ずっと炭酸の量が先行するのだ。しかも中身のウイスキーは嬉しいことにダブルかそれ以上なのだ。確実にベリベロ街道をまっしぐらだ。

ハムカツも分厚くて……

酒肴は山盛りだ。店中に品書きが張りめぐらされている。しかも安い。高いものには興味がないので安いものだけ上げておくと、この店で一番安いのが〈塩こぶ 50円〉だ。小皿に塩こぶ。それをつつきながら酒を。ちょっと贅沢な気分になるには、〈塩こぶピーマン 150円〉がオススメだな。写真の中の張り紙を眺めていただきたい。どれもとても幸せな価格だ。しかも量が少ないなどということはない。極めて良心的と言っても過言ではない。昼の早い時間から客で賑わうのも無理のないことだと納得する。

焼き魚もこの大きさ

しかしこれは、考えようによっては世の中不景気なままだということだ。少しでも安く、少しでも効率的に、楽しく、うれしく酔いたいという思いの表れだな。天文館あたりでも〈千べろ〉を売りにする店は少なくない。だがここまで充実した店はほとんどない。ここはまさに庶民にとって理想的な店かもしれない。〈千べろ〉が客を呼び込むための手段ではなく、客を幸せにする手段なのだ。リピーターは多そうだし、天文館でよく見かける酔客の顔もちらほら見える。思いは一緒なのだ。安くで楽しく酔いたいのだ。チラシを見て1円でも安い買い物をしようと自転車で走り回る主婦の気持ちがよくわかる。

同行者は「ナンパ禁止!!」の文字にがっくり

壁の張り紙を見てうれしくなった。
一、泥酔禁止
二、絡み酒禁止
三、大声禁止
さらに赤字で大きく
ナンパ禁止!!
と。値段だけではない。雰囲気も大切にしようとしているのだ。こういう店は常連であれ、一見であれ、すべての客を対等に扱う。つまり〈酒の下の平等〉が守られていると見ていいだろう。誰もが安心して飲める店なのだ。言ってしまえば簡単だけど、これが実に難しいことはあちこちの店に足を運べばすぐわかることだ。

久しぶりにいい店にたどり着いたと思った。ぜひお試しを。

(文と写真/しみてつ)

大衆立場 足立屋
住所 鹿児島市小川町9-10
電話 099-227-7510
営業時間 12:00〜24:00
店休日 無休

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